必 殺 技



 晶  「おい、伊織」
伊 織 「はっ、若。お呼びでしょうか?」
 晶  「お前、禿げてるよな」
伊 織 「禿げている……。まあ、確かに毛はありませぬが、禿げている訳ではないのですが…
     …」
 晶  「この間からすごく気になってな」
伊 織 「私の頭がですか?」
 晶  「うむ」
伊 織 「何故でございましょうか?」
 晶  「お前、この間、ガルデローベの紫水晶にやられただろ?」
伊 織 「はぁ……。油断、したわけではないのですが。やはりナノテクノロジーには生身では勝
     てませぬ」
 晶  「馬鹿。そんなだから腕を折られるんだ。こうもっとすごい技とか身に付けたらどうだ?」
伊 織 「すごい技でしょうか?」
 晶  「そうだ。例えば、こんなのはどうだ?」
伊 織 「そ、その本は?」
 晶  「本国から持ってきた。長旅なんでな。暇を持て余すだろ?」
伊 織 「はぁ、それは分かるのですが……、何故にこの本なのですか?」
 晶  「それは、ほら、やっぱり色々あるだろ?」
伊 織 「色々……でございますか……」
 晶  「ほら、これなんか結構凄そうな技だぞ?」
伊 織 「はぁ、た、確かに出来れば凄いでしょうね」
 晶  「凄いでしょうね、ではない! もっと気合を入れないか!」
伊 織 「し、しかし、若!」
 晶  「ええい! 一々文句の多い奴だな! 仕方ない、ではこの技はどうだ!」
伊 織 「私に、このような技はちょっと……」
 晶  「仕方ないなぁ。じゃあ簡単そうな技で、これなんかどうだ?」
伊 織 「た、確かに簡単そうではありますが、まず前提として……」
 晶  「ああああ! もう五月蝿い! 立て、伊織!! お前の性根を叩きなおしてやる!」
伊 織 「わ、若! そ、そんな無茶な!」
 晶  「ほら、お前も一緒にやるんだ! いくぞ!」
伊 織 「は、はぁ」
 晶  「足は大きく開いて、しっかりと大地を踏みしめる!」
伊 織 「こ、こうでございましょうか?」
 晶  「そうだ! で、次に左手をぎゅっと握って、腰につける。そうだな、正拳突きの溜めの格
    好を思い出せばいい。」
伊 織 「こうですね」
 晶  「そうだ! そして、右手を高く真上に突き出す!」
伊 織 「はっ! わ、若! 何故か身体の中を何かが込上げてきそうです!」
 晶  「そうだろう! さぁ、いまだ! 必殺技の名前を叫べ!」
伊 織 「はっ、では、参ります! はぁぁぁぁぁぁ!!」
 晶  「おおお、いい気合だ! これなら完成するぞ、伊織の必殺技!」
伊 織 「気・円・斬!」
 晶  「ぶわぁはっはっはっは! 最高だ、伊織! ぎゃははははは! 最高に似合っている
    ぞ!」
伊 織 「わ、若、身体の中を込上げてきたものが何か、ようやく分かりました」
 晶  「ぎゃははははは! ひぃひっひっひ! そっくりだぞ!」
伊 織 「さっきから身体の中から込上げているのは、涙にございました。うるるるる……」


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